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社会保険の加入条件とは?

給与計算の基本をわかりやすく解説

給与計算を行う際、従業員の社会保険加入状況を正確に把握することが重要です。しかし、社会保険の加入条件は複雑で、特にパートタイムやアルバイトなどの働き方では、加入対象の判断や、労働時間が変動した場合の対応に迷う場面も少なくありません。

本記事では、事業所側で満たすべき社会保険の加入条件を整理し、次に従業員側の加入条件について詳しく解説します。特に、正社員以外の従業員の加入判断で重要な「4分の3基準」や具体的な条件について、わかりやすく説明します。

この記事を読むことで、社会保険の加入条件に関する疑問を解消し、日々の給与計算業務をより正確かつスムーズに進めるための一助となれば幸いです。

※本記事に記載している法律や制度は、執筆時点での情報を基にしています。その後の改正や変更がある可能性があるため、最新の状況については、関連機関の公式サイトなどでご確認ください。

給与計算で確認が必要な社会保険の加入条件とは

一般的に「広義の社会保険」と呼ばれるものには、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険が挙げられます。一方で、「狭義の社会保険」と呼ばれるものが、健康保険(介護保険含む)と厚生年金保険です。本記事では「狭義の社会保険」について説明します。

健康保険は、従業員や扶養家族の医療費等を補助する給付制度であり、厚生年金保険は老後や障害・死亡時に備えるための年金制度です。

健康保険料と厚生年金保険料は、事業主と従業員が折半して負担するため※1、給与計算において社会保険の加入条件を確認することは重要です。正確に把握していないと、給与計算に誤りが生じる恐れがあります。

特に、パートタイムやアルバイトの場合、労働時間や賃金額などの条件によって加入の有無が決まるため注意が必要です。フルタイムの正社員であれば原則として全員が加入対象となりますが、パートタイムやアルバイトは「4分の3基準」などを考慮しなければなりません。

保険料の計算には標準報酬月額(各従業員の給与を元にした等級)が用いられ、これは定時決定や随時改定で見直されます。そのため給与担当者は、従業員ごとの加入状況や標準報酬月額、最新の保険料率等を把握し、システムに適切に反映させる必要があります。

※1 健康保険組合の場合、負担割合が異なることがあります。

事業所における社会保険の加入条件

社会保険の加入条件を確認する際は、まず事業所が「強制適用事業所」か「任意適用事業所」かを確認する必要があります。それぞれ加入条件が異なるため、順に解説します。

強制適用事業所

強制適用事業所とは、法律によって社会保険への加入が義務づけられている事業所のことです。以下の条件に該当する事業所は、事業主の意思に関わらず必ず社会保険に加入しなければなりません。

強制適用事業所に該当するのは、次の3つのケースです。

  • 従業員を使用するの国、地方公共団体又は法人事業所
    給与を支払っている従業員や役員が1名でもいれば、社会保険への加入手続きが必要です。たとえば社長1人のみの法人であっても、社会保険の加入手続きが求められます。
  • 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所
    個人経営の事業所であっても、5人以上の従業員を雇っていれば、原則として強制適用となります(ただし農林水産業や一部サービス業等の業種は除く)。個人事業主自身は被保険者にはなりませんが、従業員を雇用している場合は、その人数によって判断されます。
  • 船員が乗り組む一定の条件を備えた汽船や漁船などの船舶(厚生年金保険のみ)

強制適用事業所となった場合、事業主は社会保険の新規適用届および添付書類を、該当日(事業所の設立日もしくは従業員の入社日)から5日以内に日本年金機構(事務センターまたは管轄の年金事務所)に提出をします。

さらに、健康保険の加入先が協会けんぽではなく健康保険組合のときは、年金事務所の受領印のある新規適用届を事業主から健保組合に提出します。

【参考】日本年金機構 1-1:事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき

任意適用事業所

任意適用事業所とは、強制適用事業所ではない以下の事業所のことで、事業主の判断によって社会保険に加入するかどうかを決めることができます。

  • 常時雇用する従業員数が5人未満の個人事業所
  • 非適用業種(農林水産業や一部サービス業等の業種)に該当する個人事業所

任意適用が認められた場合、社会保険の加入条件を満たす従業員は全員、社会保険に加入することになります。そのため、社会保険の加入条件を満たす従業員の2分の1以上の同意を得て申請し認可を受けなければいけません。

事業主は被保険者となるべき従業員の2分の1以上の同意後、速やかに社会保険の新規適用届と任意適用同意書、添付書類を年金事務所に提出する必要があります。

【参考】日本年金機構 任意適用申請の手続き

従業員の社会保険の加入条件

事業所が社会保険の適用事業所に該当することを確認したら、次に従業員ごとの社会保険の加入条件を判断する必要があります。従業員の社会保険加入条件は、労働時間や労働条件によって異なります。

なお、以下の表に該当する従業員は労働時間にかかわらず被保険者となりません。

被保険者とならない人

被保険者となる場合

臨時に使用される人で、日々雇い入れられる人

1ヶ月を超えて引き続き雇用される場合は、その超えた日から被保険者となる

2ヶ月以内の期間を定めて使用される人

当初の雇用期間が2ヶ月以内であっても、当該期間を超えて雇用されることが見込まれる場合は、契約当初から被保険者となる。

所在地が一定しない事業所に使用される人

いかなる場合も被保険者とならない。

季節的業務(4ヶ月以内)に使用される人

継続して4ヶ月を超える予定で雇い入れられた場合は、当初から被保険者となる。

臨時的事業の事業所(6ヶ月以内)に使用される人

継続して6ヶ月を超える予定で雇い入れられた場合は、当初から被保険者となる。

※上記表では、日雇特例被保険者、70歳以上の厚生年金被保険者、後期高齢者医療制度の説明は割愛しています。

4分の3基準とは

社会保険の加入条件を判断する際に重要となるのが「4分の3基準」です。これは、同じ事業所で働く通常の労働者(フルタイム正社員など)の労働時間や労働日数と比較して、その4分の3以上働く従業員は社会保険に加入しなければならないというルールです。

具体的には、以下の2つの条件の両方を満たす場合、社会保険の加入対象となります。

  • 週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上
  • 月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上

たとえば、通常の労働者(正社員)の週の所定労働時間が40時間の場合、週30時間以上(40時間×3/4=30時間)働き、かつ、通常の労働者(正社員)の月の所定労働日数が20日の場合、月15日以上(20日×3/4=15日)働く従業員は加入対象となります。

4分の3基準を満たさない場合の条件

平成28年10月以降、社会保険の適用拡大が段階的に進められており、パートタイマー・アルバイト等で所定労働時間および所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満でも、社会保険に加入する場合があります。特定適用事業所(常時51人以上の従業員を使用する企業や団体)で働く場合、以下の1から3の条件をすべて満たすと、短時間労働者として年金保険の加入対象となります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上あること
    週の所定労働時間が20時間以上かどうかは、雇用契約書や就業規則で定められた所定労働時間で判断します。
    たとえば、雇用契約書上の週の所定労働時間が20時間以上で社会保険に加入している人が、20時間未満になる週がときどき発生してしまう場合、すぐに社会保険の加入資格を失うわけではありません。
  2. 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
    週給、日給、時間給を月額に換算したものに、各諸手当等を含めた所定内賃金の額が、8.8万円以上である必要があります。ただし、次の賃金は除きます。

    除外対象
    ・臨時に支払われる賃金および1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:結婚手当、賞与等)
    ・時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(例:割増賃金等)
    ・最低賃金法で算入しないことを定める賃金(例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当)
  3. 学生でないこと
    学生は適用対象外となります。ただし、卒業見込証明書を持っていて、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の学生や、休学中の学生、夜間学生は加入の対象です。

なお、雇用契約書上の週の所定労働時間が20時間未満である場合も、実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり賃金が月額8.8万円以上となった場合で、引き続き同様の状態が続くことが見込まれる場合、3ヶ月目から社会保険に加入します。

特定適用事業所とは

特定適用事業所とは、1年のうち6ヶ月間以上、厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない)の総数が51人以上となることが見込まれる企業等のことです。

具体的には、月ごとに70歳未満の従業員数を以下の方法でカウントします。

補足1:月ごとに従業員数をカウントして、直近12ヶ月のうち6ヶ月で51人以上になると短時間労働者を社会保険の適用対象とすべき「特定適用事業所」となります。

補足2:従業員数のカウントは、法人事業所の場合は同一の法人番号を有する全事業所を合計し、個人事業所の場合は個々の事業所ごとに行います。

【出典】政府広報オンライン 社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック

【2024年法改正】社会保険の加入条件拡大

社会保険の適用範囲は、少子高齢化や働き方の多様化に対応するため、近年段階的に拡大されています。特に2024年10月から、特定適用事業所の基準が「51人以上」となり、より多くの従業員が社会保険の対象となりました。

【出典】日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大

今回の改正で変更されたのは企業規模の要件だけで、週20時間以上や月8.8万円以上といった加入条件は変わりません。特定適用事業所(従業員51人以上の企業)は、加入条件を満たす従業員全員を社会保険に加入させる必要があり、50人以下の企業は引き続き4分の3基準が適用されます。

近い将来、51人を上回る可能性がある企業は、以下の準備をしておきましょう。

  • 従業員数の把握と予測:現在の従業員数と今後の採用計画を確認し、いつ頃51人を超える可能性があるかを予測します。
  • 対象となる従業員の特定:週20時間以上、月額8万円以上などの条件を満たす短時間労働者を特定し、社会保険加入の対象となる人数を把握します。
  • 社会保険料の試算:社会保険料の事業主負担分がどの程度増加するかを試算し、場合により予算に反映させます。
  • 手続きや給与計算への反映準備:対象となった場合に社会保険料の計算や控除に対応できるよう、手続きや給与計算への反映の準備をしておきましょう。
  • 従業員への説明準備:社会保険加入のメリット・デメリットを含む従業員への説明内容を準備しておきます。メリットの例として、傷病手当金や年金受給権の確保などが挙げられ、デメリットとしては手取り額の減少などが考えられます。

なお、厚生年金保険の被保険者の総数が51人以上の月が、直近11ヶ月のうち5ヶ月目に達した時点で、日本年金機構より「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」が届きます。直近12ヶ月で51人以上の月が6ヶ月に達したら、「特定適用事業所該当届」を届出しましょう。

社会保険加入と給与計算の注意点

社会保険の加入手続き完了後、それが給与計算にどのように、そしていつ反映されるのかを正確に理解しておくことは、給与計算担当者にとって非常に重要です。特に、月の途中で加入や喪失が発生した場合の取り扱いは間違いやすいポイントです。

社会保険加入が給与計算に反映するタイミング

新たに採用した従業員が社会保険に新規加入する場合、資格取得日は原則として入社日となります。月の途中で入社した場合でも、その月から社会保険料が発生します。社会保険料は月単位で計算され、日割り計算は行われません。

たとえば、4月10日に入社し、社会保険の加入条件を満たす従業員の場合、被保険者資格取得届を5日以内に日本年金機構へ提出します(健康保険組合に加入させる場合には、健康保険組合にも提出)。社会保険料は4月分から発生し、5月に支払われる給与から天引きされるのが一般的です。

一般的な例:4月10日入社、給与は月末締め翌月25日払いの場合

資格取得日

4月10日

社会保険料発生

4月分から

4月分の社会保険料控除

5月25日支払いの給与から

5月分の社会保険料控除

6月25日支払いの給与から

給与計算担当者がつまずきやすいポイントとしては、入社月の給与から社会保険料を控除してしまうケースが挙げられます。正しいタイミングで控除を行う必要があります。

社会保険喪失が給与計算に反映するタイミング

従業員が退職などにより社会保険の資格を喪失する場合、資格喪失日は原則として退職日の翌日となります。社会保険料は、資格喪失日が属する月の前月分まで発生します。つまり、月末に退職した場合、退職月分の社会保険料まで発生しますが、月の途中で退職した場合は、退職月の社会保険料は発生しません。

一般的な例:給与は月末締め翌月25日払い(4月30日退職の場合)

資格喪失日

5月1日

社会保険料発生

4月分まで

4月分の社会保険料控除

4月分の給与(5月25日支払い)から控除

一般的な例:給与は月末締め翌月25日払い(4月20日退職の場合)

資格喪失日

4月21日

社会保険料発生

3月分まで

4月分の社会保険料控除

なし(3月分の保険料は4月25日支払いの給与から控除済み)

社会保険料は原則翌月の給与から控除しますが、退職月に限り当月の給与から社会保険料を控除することができます。特に給与が当月払いの企業では、退職翌月に給与の支給が無いため、退職月に支払う給与から前月分と当月分の2ヶ月分の社会保険料をまとめて控除するケースもあります。自社の給与規程や運用ルールを確認しておくことが大切です。

給与計算をアウトソーシングしてミスなく社会保険手続きを

社会保険の加入条件は、従業員の働き方や事業所の規模によって異なり、法改正も頻繁にあるため、常に最新情報を把握するのは容易ではありません。特に、4分の3基準や週20時間以上、月額8.8万円の計算、従業員数のカウントなど、細かなルールが多く、ミスが発生しやすいのが現状です。

社会保険の手続きや給与計算におけるミスは、従業員からの信頼を損なうだけでなく、人事部門の負担を増やし、コア業務にも支障をきたします。こうした課題を解決するためには、給与計算のアウトソーシングが有効です。

給与計算を専門業者に委託することで、正確な処理ができるだけでなく、法改正にも迅速に対応できます。また、人事部門と社労士の間に立ち、業務負担を軽減することで、戦略的業務に集中できる環境を構築できるメリットもあります。

ADP Japanは、日本で2004年にサービスを提供開始してから20年以上がたち、製薬・金融・ITなど多様な業種のニーズに応え250社以上、従業員規模1〜6,000名の給与計算業務を支え続けてきました。グローバルの顧客数は110万社以上、140か国超の実績数を誇り、米国企業売上高ランキングのFortune 500に30年連続で選出されています。45か国語を扱う多言語対応に強みを持ち、外資系企業やグローバル人材を雇用する企業の給与計算を得意とします。給与計算アウトソーシングをご検討中の方は、ぜひお問い合わせください。

まとめ

社会保険への加入を確認する際は「事業所の適用区分」と「従業員の働き方」の2つの視点で整理すると理解しやすくなります。法人や従業員5人以上の個人事業所は「強制適用事業所」となり、それ以外は「任意適用事業所」です。

また、従業員の働き方としては、フルタイム正社員は全員加入対象となり、パート・アルバイトの場合、週や月の労働時間が通常の労働者の4分の3以上であれば原則加入対象となります。

2024年10月からは、社会保険の適用範囲が拡大されたため、今後も法改正に注視が必要でしょう。

社会保険の適用判断や管理業務には多くの労力がかかり、ミスが発生しやすいです。給与計算アウトソーシングを活用すれば、専門知識をもつプロが迅速かつ正確に対応でき、法改正やリスク管理も徹底できるでしょう。業務効率を高め、企業の信頼性向上につなげるためにもアウトソーシングの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

内山 美央(うちやま みお) 

監修者プロフィール

内山 美央(うちやま みお)

うちやま社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士

新卒3年目で社会保険労務士試験に合格。ITベンチャーでの勤怠管理システムの営業・導入コンサルティング経験を経て、大手事業会社の人事部にて労務管理や人事関連業務のDX推進に携わる。独立後は「労働時間管理のプロフェッショナル」として、人事システムの選定・導入や制度設計など、働き方の改善を入り口に、会社に寄り添った長期視点での人事労務サポートを提供している。

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