コスト削減は企業の競争力を強化する上で重要な施策の一つです。CIO Diveの調査によると、経営層の66%がコスト最適化を重視し、34%が業務効率化を優先課題としています [1] 。給与計算においても、人件費やシステム維持費といった直接コストだけでなく、コンプライアンス対応やエラー修正、手作業の負担といった間接コストが大きく影響します。しかし、多くの企業はこの間接コストの削減を見落としがちです。
コスト増は企業の財務負担を高め、利益率の低下や成長の妨げになる可能性があります。給与計算の効率化とコスト削減は喫緊の課題です。本記事では、「最適化(Optimization)、可視化(Visualization)、アジリティ(Agility)」の3つのステップで、給与計算のコスト削減と業務効率化を実現する方法を解説します。
ステップ1:給与計算の最適化(Optimization)
給与計算のコスト削減を実現するための第一歩は、業務の最適化です。企業の給与計算プロセスを見直し、非効率な作業を排除することで、コスト削減と業務効率化を同時に達成できます。
1. クラウド給与計算システムの導入
オンプレミス型の給与計算システムは、高額な初期導入費用やシステム管理の負担があり、法改正のたびにプログラムのアップデートが必要になります。一方、クラウド給与計算システムなら、最新の法規制に自動対応でき、維持管理コストを削減できます。さらに、リモートワークや多拠点展開にも対応しやすく、柔軟な運用が可能です。Forrester Consultingの調査によると、クラウド給与計算システムへの移行により、企業は平均15~35%の人件費削減を実現しています [2] 。
2. 給与計算のプロセス改善
業務手順の標準化と不要な手作業の削減により、業務のスピードと正確性を向上できます。例えば、ある企業では、給与計算部門の40%の時間が書類のスキャンや印刷に費やされていましたが、デジタル化により大幅な時間短縮を実現しました [3] 。
さらに、ワークフローの自動化により、承認や修正作業の時間を短縮できます。勤怠データの自動連携により、締め処理が効率化し、担当者のスキルに依存せず、一貫した業務品質を維持できます。税制や法改正への対応を自動化することで、コンプライアンスリスクの軽減にもつながります。
3. 給与計算と勤怠管理・人事労務システムの統合
給与計算を勤怠管理や人事労務システムと統合することで、データの一貫性を確保し、計算ミスを防ぐことができます。勤怠システムとの連携により、勤務時間や残業データを給与計算に自動反映でき、適正な給与支払いを実現できます。
また、人事労務システムとの統合により、新卒・中途採用・退職者のデータをリアルタイムで反映し、管理の正確性が向上します。主要なHCMシステムと統合すれば、給与データの更新やコンプライアンス対応が自動化され、柔軟な運用が可能になります。
ステップ2:可視化(Visualization)
給与計算の最適化が進んだら、次のステップは可視化です。企業は、給与計算データをリアルタイムで監視し、意思決定のスピードと正確性を向上させる必要があります。
1. 統合レポーティングの活用
給与計算データを一元管理し、リアルタイムで可視化することで、人件費の適正管理やコンプライアンス対応が容易になります。給与支払いデータを部門別・地域別に分析することで、コスト削減や業務効率化の改善点を明確にできます。
また、統合レポーティングにより、経営層や人事部門が迅速かつ正確にデータを把握し、意思決定のスピードを向上させることができます。さらに、給与計算システムのレポート機能を活用することで、給与計算ミスを早期に発見し、修正コストを削減することも可能です。
2. 給与データ分析の活用
給与データを活用することで、企業は業務効率の向上やコスト削減を実現できるだけでなく、戦略的な意思決定にも役立てることができます。給与データと勤怠データを組み合わせることで、過剰な残業や有給取得状況を把握し、生産性向上やコスト最適化が可能になります。
また、AIや分析ツールを活用すれば、給与計算のエラーや不正を事前に検知し、コンプライアンスリスクを軽減することもできます。
3. グローバル給与計算の標準化
海外に複数の拠点を持つグローバル企業では、平均すると32種類の給与計算システムが使用されており、結果として高い人件費、システムの複雑さ、統合の欠如につながっていることがわかっています。[4] また、グローバル企業では、各国ごとに異なる税制やコンプライアンス要件が求められます。クラウド給与計算システムを導入することで、各国の要件を満たしつつ、統一された給与計算プロセスを確立できます。
ステップ3:アジリティ(Agility)の向上
最適化と可視化が進んだら、最後のステップは給与計算のアジリティ(機敏性)の向上です。変化するビジネス環境に柔軟に対応し、成長戦略を支える給与計算体制を構築することが重要です。
1. 給与計算プロセスの柔軟性
クラウド給与計算システムを導入することで、労働法の変更や経営環境の変化に迅速に対応できます。自動アップデート機能により、新しい税制や社会保険の改定にも手作業不要で適応できます。特に、多国籍企業では、各国の法規制に対応しながら統一された給与計算プロセスを確立することが不可欠です。
2. タイムリーな従業員データの更新
モバイルアクセスを活用することで、従業員は、給与明細や源泉徴収票の確認だけでなく、オンラインで従業員の銀行口座情報や住所変更などの必要情報の更新や書類の提出が簡単に行えるようになり、タイムリーな従業員データの更新が可能になります。これにより、管理の正確性が向上し、エラーの発生も防ぐことが可能になります。 このように、モバイル対応の給与管理システムを導入することで、従業員エクスペリエンスの向上と管理業務の効率化を同時に実現し、よりスムーズな給与管理が可能になります。
3. 戦略的キャッシュフロー管理
給与支払いは企業の固定的な支出の中でも大きな割合を占めるため、適切な管理が重要です。給与の締め日や支払い日の調整、賞与やインセンティブの最適化により、キャッシュフローの安定化を図ることができます。
また、給与データをリアルタイムで分析し、将来の支出を予測することで、無駄なコストを削減し、財務の透明性を向上させることが可能です。
まとめ
給与計算のコスト削減には、最適化(Optimization)、可視化(Visualization)、アジリティ(Agility)の3つのステップが不可欠です。適切な給与計算システムを導入し、戦略的なアプローチを取ることで、コスト削減だけでなく、業務効率化やコンプライアンス強化も実現できます。
給与計算の最適化を進め、企業の競争力をさらに高めましょう。
[1] CIO Dive:「The business technology priorities of 2020(2020年のビジネステクノロジーの優先課題)」。
[2] Forrester Consulting、「ADP Global PayrollのTotal Economic Impact(総経済効果)™(TEI)調査」、2020年10月。
[3] Protiviti、「Remedying complex payroll structure(複雑な給与計算構造の改善策)」。
[4] 「ADP Global HCM Decision Makers’ Research(ADPのグローバルHCM意思決定層調査)」、2017年。