社会保険は、国が管掌する公的な保険制度の総称であり、加入者が保険料を負担し合い、「相互扶助(助け合い)」を基盤として、病気・ケガ・老後・失業・介護などの大きなリスクに備え、生活の安定と健康の保持を図る制度です。その保険料は、給与計算において欠かせない重要な控除項目です。
人事担当者が正しく給与計算を行うには、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険、それぞれの計算方法と負担ルールを正確に把握することが欠かせません。
本記事では、5つの社会保険料の計算方法・負担割合・控除手順を解説するとともに、計算ミスを防ぐためのチェックリストをご紹介します。
※本記事に記載している法律や制度は、2026年3月時点のものです。最新の公的な情報をご確認ください。
1. 社会保険料とは?
社会保険料とは、従業員の給与から天引き(控除)される公的保険の保険料です。実務上「社会保険」と呼ぶ場合は、健康保険、介護保険、厚生年金保険の3種類を指すことが多いですが、広義では、ここに雇用保険と労災保険(合わせて労働保険)が含まれます。
ただし、労災保険料は全額事業主負担のため、給与からは控除しません。これらの保険料は、従業員と企業が一定割合ずつ負担する仕組みで、日本の社会保障制度の基盤を支える重要な財源となっています。
2. 社会保険料の計算方法と給与から控除する方法
社会保険料は保険の種類ごとに計算方法や負担割合、給与からの控除手順が異なります。
ここでは、給与計算で必ず押さえておきたい5つの保険料(厚生年金保険・健康保険・介護保険・雇用保険・労災保険)について、それぞれの保険料率と労使の負担割合、給与からの控除方法を解説します。
各保険の仕組みを正しく理解することが、給与計算ミスの防止につながります。
厚生年金保険
厚生年金保険は、老齢、障害、死亡時などにおける給付を目的とした保険です。一定の収入がある会社員や公務員が対象で、加入が義務付けられています。保険料の料率と負担割合、控除方法は、以下のとおりです。
保険料率:保険料率:18.3%(2017年9月以降固定。2026年度も変更なし)
負担割合:従業員と企業が半分(9.15%)ずつ負担
控除方法:原則「翌月控除」(当月分保険料は翌月給与から天引き)。企業が従業員・事業主負担分を合算し、日本年金機構に翌月末日までに納付
出典:『厚生年金保険料額表』(日本年金機構)
健康保険
健康保険は、業務外における病気やケガ、死亡、出産に関して給付を行う保険です。病気やケガ等があった際に医療費の一部を保険でカバーします。また、病気やケガで働けなくなったときの生活保障としての給付金(傷病手当金)もあります。保険料の料率と負担割合、控除方法は、以下のとおりです。
保険料率:健保組合ごとに異なる。協会けんぽの場合は都道府県ごとに異なる(2026年度全国平均9.9%。東京都9.85%)
負担割合:従業員と企業が半分ずつ負担(健保組合は異なる場合あり)
控除方法:原則「翌月控除」(当月分保険料は翌月給与から天引き)。企業が従業員・事業主負担分を合算し、協会けんぽの場合は日本年金機構に、健保組合の場合は各健保組合に、原則翌月末日までに納付(健保組合は組合ごとに納付期限が異なる場合あり)
出典:『令和8年度保険料額表|都道府県毎の保険料額表』(協会けんぽ)
介護保険
介護保険は、高齢化進展に伴う介護ニーズの増大を踏まえ、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして創設された制度です。65歳以上が「第1号被保険者」、40歳から64歳までの健保組合、協会けんぽ、国保等の医療保険加入者が「第2号被保険者」となります。40歳に達すると「第2号被保険者」となり、65歳になると「第1号被保険者」に切り替わります。第2号被保険者の保険料は健康保険料と併せて徴収、第1号被保険者は市町村と特別区が徴収(原則、年金からの引き去り)します。保険料の料率と対象者、負担割合、控除方法は、以下のとおりです。
- 保険料率:健保組合ごとに異なる。協会けんぽの場合は全国一律62%(2026年度。2025年度の1.59%から0.03%引上げ)
- 負担割合:従業員と企業が半分ずつ負担(健保組合は異なる場合あり)
- 控除方法:原則「翌月控除」(当月分保険料は翌月給与から天引き)。企業が従業員・事業主負担分を合算し、協会けんぽの場合は日本年金機構に、健保組合の場合は各健保組合に、原則翌月末日までに納付(健保組合は組合ごとに納付期限が異なる場合あり)
雇用保険
雇用保険は、主に失業時や育児休業中の給付金を支給するための保険です。正社員だけでなく、週20時間以上かつ31日以上の継続雇用見込みのある契約社員やパートタイム労働者も対象になります。保険料の料率と負担割合、控除方法は、以下のとおりです。
保険料率:一般の事業で合計1.35%(2026年度。2025年度1.45%から引下げ)。農林水産・清酒製造業・建設業は別途高い料率が適用される
負担割合:従業員と企業がそれぞれ負担(企業の負担割合が多い)
控除方法:給与・賞与支給のたびに賃金総額に料率を乗じて算出し天引き。企業が労働保険料として毎年6月1日〜7月10日の年度更新で申告・納付
出典『令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内』(厚生労働省)
労災保険
労災保険は、業務上または通勤中のケガ・病気・障害・死亡等に関して給付を行う保険です。中心となる役割は業務災害・通勤災害に対する補償で、療養費の全額給付や休業中の賃金補償を行います。保険料の料率と負担割合、控除方法は、以下のとおりです。
保険料率:業種ごとに異なる(例:最も低い業種で0.25%、最も高い業種で8.8%)
負担割合:全額事業主負担。従業員の給与からは控除しない
控除方法:企業が毎年6月1日〜7月10日の年度更新で前年度確定・当年度概算保険料をまとめて申告・納付
出典:『令和8年度の労災保険率について』(厚生労働省)
3. 給与計算における社会保険料計算の課題
給与計算における社会保険料の計算には、複数のつまずきポイントがあります。これらの課題に対して企業規模や運用状況に応じて現実的な解決策を検討する必要があります。
法改正や保険料率変更への対応
保険料率の年度ごとの変更や法改正に迅速に対応できない場合、誤った控除額の算出や法令違反のリスクが生じます。
標準報酬月額の管理
標準報酬月額は保険料計算の基礎で、①資格取得時決定、②定時決定(毎年7月、4〜6月の報酬平均で9月から適用)、③随時改定(固定的賃金に大幅変動が生じた際)、④育休・産休終了後の改定のタイミングで見直されます。
また、定年退職後に継続して再雇用される場合、退職と再雇用を同日に行ったとみなす「同日得喪」という手続きが認められています。これにより、大幅に賃金が下がった場合、随時改定や定時決定を待たず、新たに資格取得時決定を行うことができます。
改定漏れや適用月の誤りは過誤納につながるため、管理の徹底が求められます。標準報酬月額の詳しい内容については、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:標準報酬月額と標準賞与額とは?保険料が決まるタイミング、給与計算を効率化するポイントを解説
計算ミスのリスク
社会保険料の計算は、標準報酬月額の等級適用・最新料率への更新・翌月控除の原則など複数の要素が絡み合う複雑なプロセスです。手作業による計算では過少控除・過大控除のミスが起きやすく、従業員とのトラブルや追加手続きが発生するリスクがあります。
4. 社会保険料を正しく計算するためのチェックリスト
給与計算で社会保険料を正しく計算・控除するために、毎月・毎年確認すべきポイントをチェックリスト形式でまとめました。特にミスが起きやすい場面ごとに整理していますので、給与確定前のセルフチェックにお役立てください。
加入要件に合致しているか
社会保険と雇用保険では加入の要件が異なります。健康保険・厚生年金は1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所の正社員の4分の3以上の従業員が原則です。さらに、従業員数51人以上の企業等で働く短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上かつ月額賃金が8.8万円以上等の一定の要件を満たす者)も加入対象となります。
また法改正により、今後、段階的に短時間労働者の加入要件が縮小・撤廃されることになっていますので、ご注意ください。
一方、雇用保険は週の所定労働時間が20時間以上であり、雇用期間の見込みが31日以上の従業員が加入対象です。
出典:『社会保険の加入対象の拡大について』(厚生労働省)
資格取得・喪失日は間違いないか
社会保険料の計算では、資格取得日と喪失日のミスも起きやすいです。手続きが初めての場合は、特に以下の項目を確認しましょう。
- 資格取得日
正社員の場合は入社日。アルバイトやパート等、短時間勤務の従業員は加入要件に満たず、対象外となる場合あり。
加入条件を満たした場合は、その日が資格取得日となります。 - 資格喪失日
退職日の翌日。雇用保険の離職日は退職日当日で、翌日が喪失日。
月末退職の場合、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は退職月分まで保険料が発生します。翌月徴収の会社では、最終給与から前月分と退職月分の2か月分をまとめて控除するケースがあるため注意が必要です。
最新の法令・保険料率は反映されているか
年度切り替わりのタイミング(健康保険・介護保険は3月分=4月支給分、雇用保険は4月1日以降の最初の締日から)に保険料率が改定されます。
そのため、給与計算システムの保険料率設定が正しく更新されているか必ず確認してください。
2026年度は「子ども・子育て支援金」(0.23%)の徴収開始(4月分=5月支給分)もあるため、設定変更が2か月連続で必要になる点に注意が必要です。
標準報酬月額・等級の適用は正しいか>
定時決定(9月適用)・随時改定・資格取得時決定などの反映漏れがないか確認します。昇給・降給後の等級変更の処理漏れ、通勤手当など標準報酬月額の算定に含めるべき手当の取り扱いに誤りがないかもチェックしましょう。
5. 給与計算アウトソーシングのメリット
ここまで見てきたように給与計算業務を行うときは、最新の保険料率の把握、標準報酬月額の正確な管理、適切な控除タイミングの確認など、社会保険料に関する正確な知識が必要不可欠です。
働き方改革で雇用形態が複雑化し、法改正も毎年行われるなか、日々さまざまな業務に追われる人事担当者が、その正確性を維持し続けることは容易なことではありません。社内の人員では限界があるときの有効な選択肢のひとつが、給与計算業務のアウトソーシングです。
アウトソーシングの主なメリットは、大きく4点に整理できます。
1. 正確性の向上とミス防止
専門知識を持つ担当者がクラウド型システムを活用して業務にあたるため、標準報酬月額の等級適用ミスや保険料率の更新漏れといった計算ミスを未然に防げます。
2. 法改正への迅速な対応
税制・労働法・社会保険制度は頻繁に改正されます。専門会社に委託することで常に最新の法令に基づいた処理が実現でき、コンプライアンスリスクの軽減につながります。
3. 人事担当者の業務負担軽減
定型的な給与計算業務から解放されることで、人事担当者は採用・育成・人事制度の整備といった戦略的業務に注力できるようになります。
4. グローバル・多言語対応
外国籍従業員が在籍する職場では、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険という複数の保険制度の内容や負担ルールを、言語の壁を越えて説明・運用することは容易ではありません。外国語対応が可能なアウトソーシングサービスを活用することで、多国籍な従業員への対応もスムーズになります。
まとめ
給与から控除される社会保険料は、間違いを起こすと、年金事務所・健康保険組合等に連絡のうえ訂正作業を行うとともに、当該従業員に説明し、追加徴収や返金を行うといった煩雑な作業が発生します。給与計算アウトソーシングは、専門知識の活用による正確性の向上、業務負担の軽減、コスト削減、そして従業員満足度の向上が実現できる点は、企業にとって大きなメリットです。
給与計算業務をアウトソーシングすることで、法令遵守を徹底しながらミスを防ぎ、企業のリスクを軽減できます。これにより、人事部門は戦略的業務に集中でき、企業全体の成長を支える基盤が強化されます。
アウトソーシングの導入を検討し、給与計算業務をより効率的かつ正確に運営することで、企業の競争力を高めていきましょう。
