人事労務に関連する法律は種類が豊富で、毎年のように改正されているものも多くあります。人事担当者にとって、日々の業務をこなしながら、法改正の内容を押さえ実務へ反映させるのは大変です。
この記事では、2025年(令和7年度)に予定されている人事労務に関する法改正をご紹介します。法改正の全体像の理解や業務スケジュールの整理にぜひお役立てください。
2025年(令和7年度)人事労務の法改正と対応事項を一覧で解説
最初に2025年の法改正の全体像を確認しましょう。2025年に施行が予定されている人事労務関連の主な法改正は、以下のとおりです。
法律(施工日) |
変更点の概要 |
給与計算の変更有無 |
就業規則の変更有無 |
その他対応事項 |
育児介護休業(2025年4月1日・10月1日) |
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あり |
あり |
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雇用保険法(2025年4月1日・10月1日施行) |
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あり |
あり |
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高年齢者雇用安定法(2025年4月1日) |
65歳までの雇用確保措置の完全義務化 |
なし |
あり |
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障害者雇用促進法(2025年4月1日) |
除外率の引き下げ |
なし |
なし |
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労働安全衛生法(2025年1月1日) |
労働者死傷病報告の報告事項改正、電子申請の義務化 |
なし |
なし |
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厚生年金保険法(2025年4月1日) |
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なし |
なし |
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改正内容を詳しく見ていきましょう。
1. 育児介護休業法
育児・介護休業法の改正は毎年多岐にわたります。2025年の法改正のうち、今回取り上げるのは以下の2点です。
- 子の看護等休暇の拡充
- 男性育休取得状況の公表義務対象企業の拡大
出典:『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内』(厚生労働省)
子の看護等休暇の拡充
子の看護等休暇は、病気やけがをした子の世話や、予防接種・健康診断の受診のための休暇制度です。2025年4月から、以下の4点が改正されます。
改正事項 |
改正前 |
改正後 |
対象となる子の範囲 |
小学校入学前まで |
小学校3年生まで |
取得事由 |
子の病気やけがの世話 予防接種・健康診断の受診 |
子の病気やけがの世話 予防接種・健康診断の受診 学級閉鎖に伴う世話 入学(園)式・卒園式の参列 |
名称 |
子の看護休暇 |
子の看護「等」休暇 |
労使協定による除外対象者 |
週所定労働日数2日以下 継続雇用期間6ヶ月未満 |
週所定労働日数2日以下 |
子の看護等休暇は無給でも構いません。無給とする場合、休暇を取得した分の給与を控除する必要があります。子の看護等休暇は時間単位での取得も可能なため、日単位・時間単位の控除額の計算方法をそれぞれ確認しましょう。
男性の育児休業取得状況の公表対象企業が従業員300人超に変更
育児・介護休業法では、一定以上の規模の企業に男性の「育児休業等の取得率」か「育児休業等と育児目的休暇の取得率」の公表を義務付けています。
2025年3月まで、公表が義務付けられていたのは従業員が1,000人超の企業でしたが、2025年4月からは、従業員数が300人超の企業まで拡大されました。
2. 雇用保険法
雇用保険法は、2025年の法改正が例年より多くなっています。主な改正事項と概要、施行時期を以下にまとめました。
改正項目 |
主な内容 |
施行時期 |
出生後休業支援給付金の創設 |
出産後または産後休業終了後8週間以内に、両親が14日以上の育児休業を取得した場合に、通常の育児休業給付に上乗せして支給(休業開始時賃金日額の最大13%相当) |
2025年4月1日 |
育児時短就業給付金の創設 |
2歳未満の子を養育するための時短勤務をして賃金が減少した場合に、時短勤務中の賃金の最大10%を支給 |
2025年4月1日 |
雇用保険料率の変更 |
労働者負担分・事業主負担分の保険料率が変更 |
2025年4月1日 |
高年齢雇用継続給付の見直し |
2025年4月1日以降に60歳に到達した受給者の給付率が最大10%に縮小 |
2025年4月1日 |
自己都合離職者の給付制限の見直し |
給付制限期間を原則1ヶ月に短縮、教育訓練の受講により給付制限を解除する仕組みの創設 |
2025年4月1日 |
教育訓練休暇給付金の創設 |
教育訓練受講のための休暇を取得した場合に、賃金の一部を支給 |
2025年10月1日 |
出生後休業支援給付金の創設
仕事と育児の両立支援策として、2025年4月から出生後支援給付金が創設されました。主な内容は以下のとおりです。
- 支給要件:原則として、父親が子の出生日から8週間、母親が産後休業終了日から8週間以内に、両親ともに育児休業(出生後育児休業を含む)を14日以上取得(配偶者が自営業・経営者・無職等の場合など、その他にも支給されるケースも有り)
- 支給額:通常の育児休業給付金にくわえて、休業開始時賃金日額(※)の最大13%相当額を支給
※育児休業開始前6ヶ月間の賃金総額を180で割った額
- 支給日数:最大28日間
- 手続き: 通常の育児休業給付金や出生時育児休業給付金と合わせて申請可能
申請時に添付する書類は、該当する要件によって異なります。パンフレットを参照し、必要書類を従業員に正確に案内しましょう。
出典:
『出生後休業支援給付金を創設します』(厚生労働省)
育児時短就業給付金の創設
育児時短就業給付金は、2歳未満の子を育てる従業員が、時短勤務をする場合に支給される給付金です。時短勤務中に支払われた賃金額の最大10%が支給されます。
支給されるのは、育児休業(出生児育児休業を含む)から引き続き時短勤務を開始した場合か、時短勤務を開始する日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上ある場合です。
育児時短就業給付金の申請は2ヶ月に1回のため、対応を忘れないように注意が必要です。対象となる従業員の確認や、申請手続きの管理を仕組み化し、手続き漏れを発生させないよう気をつけましょう。
出典:『育児時短就業給付の内容と支給申請手続』(厚生労働省)
雇用保険料率の変更
雇用保険料率は法改正ではありませんが、給与計算への影響が大きいため必ず確認しましょう。2025年4月からの雇用保険料率は、以下のように変更になります。
事業の種類 |
雇用保険料率 |
労働者負担 |
事業主負担 |
一般 |
14.5/1,000 (15.5/1,000) |
5.5/1,000 (6/1,000) |
9/1,000 (9.5/1,000) |
農林水産 清酒製造 |
16.5/1,000 (17.5/1,000) |
6.5/1,000 (7/1,000) |
10/1,000 (10.5/1,000) |
建設 |
17.5/1,000 (18.5/1,000) |
6.5/1,000 (7/1,000) |
11/1,000 (11.5/1,000) |
()は令和6年度の雇用保険料率
雇用保険料は毎月の給与からの徴収が欠かせません。Excelなどの表計算ソフトで給与を計算している場合はもちろん、給与システムでも、ご自身で雇用保険料率を変更する場合もあります。
使用している給与システムの仕様を確認し、設定変更の作業が必要な場合は手順やタイミングを確認しましょう。設定を誤ると訂正が必要になるだけでなく、従業員からの信頼も損なう恐れがあります。
上司とダブルチェックするなど、細心の注意を払ってミスを防ぎましょう。
出典:『令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内』(厚生労働省)
高年齢雇用継続給付の見直し
高年齢雇用継続給付は、60歳以上の従業員の賃金低下を補う制度です。60歳時点の賃金額と比較した低下率に応じて、給付金が支給されます。
2025年の法改正により、高年齢雇用継続給付金の支給額が引き下げられました。従来の支給額は賃金額の最大15%でしたが、2025年4月1日以降に60歳になる従業員は最大10%に引き下げられます。
給付申請の手続きに変更はありませんが、従業員から問い合わせがあった際に説明できるよう、改正内容を正確に把握しておきましょう。
出典:『令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します』(厚生労働省)
自己都合離職者の給付制限の見直し
雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)は、自己都合で退職した場合に一定の給付制限が設けられています。この給付制限について、以下の2点が改正されました。
- 原則の給付制限期間の短縮
自己都合で離職した場合の給付制限期間は原則2ヶ月でした。2025年4月以降に離職した場合、給付制限期間が原則1ヶ月に短縮されます。
- 教育訓練による給付制限解除
教育訓練等を離職日前1年以内に受けた方、または離職日以後に受ける方は給付制限が解除され、基本手当を受給できるようになりました。
出典:
『雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要』
『令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます』(厚生労働省)
教育訓練休暇給付金の創設
教育訓練休暇給付金は2025年10月1日から創設される給付金です。教育訓練を受講するための休暇を取得する場合に支給されます。支給額は基本手当と同額です。
具体的な手続きや要件はまだ政府から公表されていません。時期が近づいたら続報が出ていないか確認しましょう。
出典:『教育訓練休暇給付金について』(厚生労働省)
3. 高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法では、企業に対して以下のいずれかの「高年齢者雇用確保措置」の実施を義務付けています。
- 定年制の廃止
- 65歳までの定年引き上げ
- 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
3の継続雇用制度は「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる年齢の従業員に限り、労使協定にもとづいて対象者を限定できる経過措置が設けられていました。この経過措置が2025年3月31日で終了し、2025年4月1日からは原則として、継続雇用制度を導入する場合は、希望者全員を対象としなければならなくなりました。
就業規則や労使協定で経過措置に関する規定を設けている場合は、改定が必要です。早めに規定を確認しましょう。
出典:『高年齢者雇用安定法の改正』(厚生労働省)
4. 障害者雇用促進法
障害者雇用促進法では、常時雇用する労働者の数に一定割合の障害者を雇用しなければならない法定雇用率が定められています。民間企業の場合、現在の法定雇用率は2.5%のため、従業員数が40人以上の企業は障害者1人以上を雇用しなければいけません。
常時40人以上の労働者を雇用する企業は毎年1回6月1日現在における障害者の雇用状況をハローワークに報告する必要があります。
一部の業種では、法定雇用率に乗ずる常時雇用する労働者の数から一定割合を控除できる「除外率制度」が設けられています。2025年4月から、この除外率が10ポイント引き下げられました。
障害者の雇用人数が法定雇用率に満たない企業は、障害者雇用納付金を納める必要がある場合があります。逆に、法定雇用率を超える障害者を雇用している企業に対しては障害者雇用調整金が支給される場合があります。
法改正も踏まえて自社の状況を確認し、法定雇用率に満たない場合は対応を検討しましょう。
出典:『障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について』(厚生労働省)
5. 労働安全衛生法
労働安全衛生法にもとづく労働者死傷病報告について、2025年1月から以下の2点が改正されました。
- 報告事項の改正
労働災害の発生状況をより詳しく把握するために、業種や職種、傷病名、国籍の記載が義務化されました。また、従来1つの記入枠に災害発生状況の5要素を記入していましたが、記入枠が要素ごとに5分割されました。
- 電子申請の義務化
e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用した電子申請による報告が義務化されました。
電子申請については厚生労働省から入力支援サービスが提供されているため、必要に応じてご活用ください。
※労働者死傷病報告以外にも、以下の6つの電子申請が原則義務化されています。
・総括安全衛生管理者/安全管理者/衛生管理者/産業医の選任報告
・定期健康診断結果報告
・心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告
・有害な業務に係る歯科健康診断結果報告
・有機溶剤等健康診断結果報告
・じん肺健康管理実施状況報告
出典:『労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます』(厚生労働省)
6. 厚生年金保険法
厚生年金保険法の法改正は高年齢雇用継続給付との併給調整の見直しです。60歳〜65歳未満で特別支給の老齢厚生年金を受け取っている従業員は在職老齢年金の仕組みによる支給停止額に加えて、同時に雇用保険法の高年齢雇用継続給付を受けている場合、年金の一部が支給停止されます。高年齢雇用継続給付の支給率が引き下げられたことにより、老齢厚生年金の支給停止の上限が標準報酬月額の最大6%から最大4%に引き下げられました。
出典:
『年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整』(日本年金機構)
法改正と給与計算の見直しポイント
人事労務に関係する2025年の法改正のうち、給与計算に関係があるものは以下の2点です。
- 子の看護等休暇(育児・介護休業法):無給とする場合の給与の控除
- 雇用保険料率の変更(雇用保険法): 毎月の雇用保険料の計算
法改正ではありませんが、健康保険料率や介護保険料率も3月分から見直されます。改正後の料率は、協会けんぽに加入しているか健康保険組合に加入しているか、加入している健康保険組合の種類によって異なります。
自社の加入状況や最新の健康保険料率を確認し、雇用保険料率の変更と合わせて給与計算へ反映させましょう。
給与計算アウトソーシングで法改正対応をスムーズに
法改正は内容の理解に時間がかかり、企業として対応するのも一苦労です。給与計算に関連する法改正の対応を誤ると、全従業員の給与に影響が出る場合もあります。
外国人を雇用している企業の場合、日本の複雑な法改正の内容をわかりやすく説明し、理解してもらうのも困難でしょう。
法改正に確実に対応するには、給与計算業務のアウトソーシングが有効です。ADP Japanは、日本で2004年にサービスを提供開始してから20年以上の実績を持ち、グローバルでは110万社を超える顧客企業にサービスを提供、その範囲は140か国以上に及びます。
とくに、45か国語に対応可能な多言語サービスに強みを持ち、外資系企業やグローバル人材を多く雇用する日本企業の給与計算を得意としています。法改正への迅速な対応はもちろん、複雑な給与体系や多様な雇用形態にも柔軟に対応可能です。
給与計算のアウトソーシングをご検討の際は、ぜひADP Japanにお気軽にお問い合わせください。
まとめ
今回は、2025年(令和7年度)に予定されている人事労務に関係する法改正について、概要と必要な対応をご紹介しました。
法改正への対応は、企業のルールを社会のトレンドに合わせることにつながります。単に法律で決まっているから遵守するだけではなく、企業の制度を改善するチャンスと捉え、法改正に前向きに対応しましょう。