インサイト

社会保険における106万円の壁とは?103万円の壁の160万円への引き上げとは?

給与計算の基本をわかりやすく解説

「106万円の壁が撤廃されるとよく聞くけど、具体的に何が変わるのかよく分からない」とお悩みの人事担当者は多いのではないでしょうか。

日本の社会保険制度・税制度では106万円の壁以外にも、さまざまな「年収の壁」が存在します。いずれの壁も給与計算業務に大きく影響しますが、名前が似ていて分かりにくく、整理できていない方も多いでしょう。

本記事では、106万円の壁の撤廃を中心に、年収の壁の概要や改正内容について解説します。日本の複雑な社会保険制度・税制度を理解し、毎月の給与計算を正確に処理するために、しっかり内容を押さえましょう。

※本記事に記載している法律や制度は、執筆時点での情報を基にしています。その後の改正や変更がある可能性があるため、最新の状況については、関連機関の公式サイトなどでご確認ください。

106万円の壁・撤廃とは

106万円の壁とは、社会保険料の負担が発生する年収ラインを指します。日本の税制や社会保険制度に存在する、いわゆる年収の壁の一つです。

厚生年金の被保険者が常時51人以上いる事業所(特定適用事業所)で働く従業員が以下の要件を満たす場合、社会保険に加入する必要があります。

  • 週所定労働時間が20時間以上
  • 雇用期間が継続して2ヶ月を超える(見込み含む)
  • 賃金の月額が8万以上
  • 学生でない

3つ目の「賃金の月額が8.8万円以上」を年収にすると約106万円となります。つまり、年収が106万円を超え、他の要件も満たした場合、社会保険の被保険者として給与から社会保険料が控除されます。

2024年12月に開催された社会保障審議会年金部会では、この賃金要件の撤廃が提案されました。賃金要件が撤廃された場合、これまで社会保険に加入する必要がなかった従業員が、社会保険の加入対象となる可能性があります。

賃金要件の撤廃が行われると、今まで社会保険料を徴収していなかった従業員の給与から社会保険料を控除したり、随時改定の該当有無を確認したりする業務が増えるでしょう。

出典:『被用者保険の適用拡大及びいわゆる「年収の壁」への対応について』厚生労働省

2025年3月税制改正関連法案修正された160万円の壁とは

106万円の壁を撤廃する提案を受けて、103万円の壁も見直されました。103万円の壁とは、所得税が非課税となる年収のラインです。

現状の税制度での所得税の計算では、年収から基礎控除48万円と給与所得控除55万円が控除されるため、控除の合計額103万円までは、給与に所得税がかかりません。今回の税制改正では、この基礎控除と給与所得控除の額が以下のように引き上げられました。

比較項目

改正前

改正後

基礎控除

48万円

最大95万円

給与所得控除

最低保証額55万円

最低保証額65万円

合計控除額

103万円

最大160万円

つまり、所得税がかかり始める年収のラインが103万円から160万円に変わります。改正後の基礎控除額は所得金額に応じて変動するため、計算が複雑になります。2025年の年末調整で所得税を計算する際に注意しましょう。

106万円の壁が見直しされた背景

106万円の壁が見直された背景には、以下の2点が影響しています。

  • 社会保険の適用拡大

2024年10月から、106万円の壁の影響を受ける事業所の範囲が、厚生年金の被保険者が常時51人以上働く事業所に拡大されました。50人以下の事業所で働く場合は、被保険者に該当しないことから、勤め先の選択に影響が出るため不合理であると考えられています。

  • 最低賃金額の上昇

社会保険の加入には賃金要件以外に「週所定労働時間が20時間以上」という労働時間の要件があります。近年、全国的に最低賃金が引き上げられたことで、週20時間以上働けば、106万円の壁を超える地域や事業所が増えました。このため社会保障審議会年金部会では、賃金要件を設ける必要性が薄いと考え、撤廃が提案されています。

106万円・160万円以外の収入の壁

106万円の壁や160万円の壁以外にも、日本にはさまざまな「年収の壁」が存在します。以下に、年収の壁の概要をまとめました。

壁の名称

制度

概要

106万円の壁

社会保険の壁

社会保険料が発生するライン

130万円の壁

社会保険の壁

被扶養者から外れるライン

103万円の壁

税金の壁

所得税が発生するライン(見直し前)

160万円の壁

税金の壁

所得税が発生するライン(見直し後)

100万円の壁

税金の壁

住民税が発生する可能性があるライン(見直し前)

110万円の壁

税金の壁

住民税が発生する可能性があるライン(見直し後)

150万円の壁

税金の壁

配偶者特別控除の控除額が下がるライン

201万円の壁

税金の壁

配偶者特別控除が受けられなくなるライン

配偶者手当の壁

-

企業により要件が異なる

それぞれの年収の壁の存在や内容を把握しないと、給与計算で税金や社会保険料の控除額を誤ってしまう恐れがあります。各年収の壁の内容を確認していきましょう。

社会保険の壁

社会保険の壁における「社会保険」とは健康保険や介護保険、厚生年金保険を指し、雇用保険は含まれません。

106万円の壁は、従業員数が常時51人以上の企業(特定適用事業所)で働く場合に、勤務先の健康保険や厚生年金保険に加入する義務が発生するラインを指します。

130万円の壁は、社会保険における被扶養者の要件に関するラインです。年収が130万円以上になると、健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者となる要件を満たさなくなり、国民健康保険料や国民年金保険料を支払う必要があります。

東京都で協会けんぽに加入する場合の社会保険料を見てみましょう。年収106万円の方が社会保険の被保険者になった場合、毎月の給与に以下の社会保険料(2025年度の場合)がかかります。

  • 健康保険料:4,360円(40歳未満または65歳以上の場合)または5,060円(40歳以上65歳未満の場合)
  • 厚生年金保険料:8,052円

合計すると、毎月12,412円か13,112円の社会保険料が給与から控除されます。年収が106万円未満で社会保険の加入要件を満たさない場合、上記の社会保険料は一切かかりません。つまり、年収が106万円を超えると、106万円未満の時より手取りが少なくなる可能性があります。

税金の壁

税金の壁では、100万円の壁と103万円の壁が重要です。いずれも見直しがあったため、見直し前後を比較しましょう。

 

100万円の壁

103万円の壁

対象

住民税

所得税

現行

基礎控除43万円

給与所得控除55万円

基礎控除48万円

給与所得控除55万円

見直し後

基礎控除43万円

給与所得控除65万円

基礎控除58〜95万円

給与所得控除65万円

見直し後非課税額

110万円

160万円

備考

額は自治体による

見直し後の基礎控除額は収入により変動する

100万円の壁も103万円の壁も、見直しにより課税となるラインが引き上げられました。2025年の年末調整では、見直し後の額で控除額を計算する必要があります。2025年12月以降の例月給与は、扶養親族の数え方や源泉徴収税額が変更となるため注意しましょう。

配偶者がいる従業員の場合、150万円の壁と201万円の壁も考慮する必要があります。

  • 150万円の壁

 配偶者特別控除の最大額(38万円)を受けられなくなるラインです。配偶者の年収が150万円を超えると、配偶者特別控除の額が徐々に減額されていきます。

  • 201万円の壁

配偶者特別控除が0円になるラインです。配偶者の年収が201万6,000円を超えると、配偶者特別控除が受けられなくなります。

配偶者手当の壁

配偶者手当は、各企業が独自に設ける制度です。配偶者手当の制度を定めなくても、法的に問題はありません。配偶者手当の制度がある多くの企業では、配偶者が税法上または社会保険上の扶養親族であることを支給の要件としています。

そのため、配偶者の年収要件が税法上の扶養であるなら103万円の壁が、社会保険上の扶養であるなら130万円の壁が意識されます。

税法上の扶養を要件としている場合、103万円の壁の見直しにともない配偶者手当の要件も見直すかは企業の自由です。人事担当の方は、配偶者手当の支給規程を改めて確認し、見直しの要否を確認しましょう。

年収の壁・支援強化パッケージとは

年収の壁・支援強化パッケージとは、パートやアルバイトなどの従業員が、年収の壁を意識せずに働ける環境づくりを支援する政府の取り組みです。具体的にどのような取り組みが用意されているのか、人事担当者が押さえておくべきポイントを確認しましょう。

106万円の壁への対応

年収が106万円を超えて社会保険料の負担が発生すると、年収が106万円未満のときよりも手取りが減る可能性があります。社会保険料は企業と従業員で折半して負担する仕組みのため、社会保険の被保険者が増えると企業の負担も増加します。

社会保険料による従業員や企業の負担を抑える取り組みが「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」です。本助成金は、以下のいずれかの取り組みを行い、一定の要件を満たした企業に支給されます。

  • 手当等支給メニュー: 従業員の手取り収入の減少を補うための手当(社会保険適用促進手当)の支給
  • 労働時間延長メニュー: 社会保険適用に合わせた所定労働時間の延長や賃上げ
  • 併用メニュー: 上記2つの組み合わせ

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を活用すると、従業員と企業はともに社会保険料の負担を抑えられます。

出典:『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)』(厚生労働省)

130万円の壁への対応

年収が130万円を超えると、配偶者の社会保険の扶養や国民年金第3号被保険者の要件から外れ、国民健康保険料や国民年金保険料を支払う必要があります。手取り収入が減少しないよう、残業による収入増加を避けるために、働く時間を調整するパートやアルバイトの方は少なくありません。

130万円の壁への対応として、一時的な収入増加であることを事業主が証明すれば、引き続き扶養に入れる仕組みもあります。繁忙期の人手不足対応などで一時的に収入が増加した場合、事業主の証明が付された所定の様式を保険者に提出すると、被扶養者認定が継続される仕組みです。

本制度の存在を知らないと、忙しい時期でも就業調整を行う従業員がいるかもしれません。繁忙期の人手不足を避けるためにも、社内へ適切に周知しましょう。

出典:『パート・アルバイトで働く「130万円の壁」でお困りの皆さまへ』(厚生労働省)

給与計算アウトソーシングで「収入の壁」に対応しよう

「年収の壁」は種類が多く、それぞれ適用される時期や内容、影響範囲が異なります。一つひとつの内容や改正事項を正確に把握し、給与計算へ反映させるのは、人事担当者にとって大きな負担です。

複雑な日本の税金・社会保険制度に対応するには、給与計算業務のアウトソーシングが有効です。専門のアウトソーシングサービスを利用すれば、控除額の改定や社会保険料率の変更など、複雑な法改正にも迅速かつ正確に対応できます。

ADP Japanは、日本で2004年にサービスを提供開始してから20年以上がたち、グローバルの顧客数は110万社以上、140か国超の実績数を誇ります。45か国語を扱う多言語対応に強みを持ち、外資系企業やグローバル人材を雇用する企業の給与計算を得意とします。給与計算アウトソーシングをご検討中の方は、ぜひお問い合わせください。

まとめ

今回は社会保険の106万円の壁を中心に、日本の給与計算で欠かせない「年収の壁」についてご紹介しました。

「年収の壁」は種類が豊富なうえに、それぞれの制度内容も複雑です。本記事の内容をしっかり押さえて、適切に給与計算へ反映させましょう。

内山 美央(うちやま みお) 

監修者プロフィール

内山 美央(うちやま みお)

うちやま社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士

新卒3年目で社会保険労務士試験に合格。ITベンチャーでの勤怠管理システムの営業・導入コンサルティング経験を経て、大手事業会社の人事部にて労務管理や人事関連業務のDX推進に携わる。独立後は「労働時間管理のプロフェッショナル」として、人事システムの選定・導入や制度設計など、働き方の改善を入り口に、会社に寄り添った長期視点での人事労務サポートを提供している。

給与計算サービス

速くて簡単、正確なサービスで税務も処理でき、時間とお金を節約できます。

給与計算サービスの概要
給与計算サービス

関連リソース

Closing the gender pay gap in Europe

インサイト

ADP の調査結果:男性従業員に関する洞察

NelsonHall Payroll NEAT Assessment 2023 badge

アナリストレポート

NelsonHall の給与計算サービスを対象とした NEAT 2023 においてリーダーに選出されました