深夜に従業員を働かせた場合、給与を割増で支払うことは知っているものの、深夜労働の具体的な時間帯や対象者など詳細が分からない方もいるでしょう。
本記事では、深夜割増の定義や適用対象となる従業員の範囲、割増賃金の具体的な計算方法等について、給与計算担当者向けにわかりやすく解説します。
※本記事に記載している法律や制度は、執筆時点での情報を基にしています。その後の改正や変更がある可能性があるため、最新の状況については、関連機関の公式サイトなどでご確認ください。
深夜残業の割増賃金とは
深夜労働の割増賃金とは、労働基準法の深夜時間帯(午後10時~翌日午前5時)に従業員を働かせた場合に、通常の賃金の25%以上を割増して支払う賃金です。
時間外労働と深夜労働が重なる場合は、時間外割増の125%に深夜割増の25%が加わり、合計で150%(1.5倍)以上の賃金を支払わなくてはなりません。同様に、法定休日出勤と深夜労働が重なった場合も、法定休日出勤の割増135%に深夜割増を加えて、合計で160%(1.6倍)以上の賃金を支払うことが求められます。
<9時から23時まで働いた場合の給与計算の例>
・条件
一時間当たりの賃金:1,500円
所定労働時間:9:00〜18:00(8時間)
休憩時間:12:00~13:00(1時間)
実際の勤務時間:9:00〜23:00(13時間)
残業時間:18:00〜23:00(5時間)
残業時間のうち深夜時間帯:22:00〜23:00(1時間)
・計算方法
所定労働時間 1,500円×8時間=12,000円
深夜を除く残業時間 (1,500円×1.25)×4時間=7,500円
深夜残業時間(1,500円×1.5)×1時間=2,250円
・合計支給額
12,000円+7,500円+2,250円=21,750円
深夜残業の定義
労働基準法第37条第4項では、午後10時から翌日午前5時までの時間帯を「深夜」と定めています。この時間帯に働いた場合、通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を上乗せして支払うことが法律で義務付けられています。
割増賃金の種類
深夜労働の他にも、法律ではさまざまな状況に応じた割増賃金の支払いが定められています。
割増賃金とは、時間外や深夜、休日など特定の条件で労働が行われた場合に、通常より高い割増率で支払われる給与を指します。割増の対象となる主なケースは「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」「時間外労働が月60時間を超過した時間」の4つで、それぞれに対しての割増率は以下のとおりです。
割増の種類 |
条件 |
割増率 |
時間外労働(法定外労働) |
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた部分 ※1ヶ月60時間まで |
25%以上 |
休日労働 |
法定休日(週1日または4週4日)に労働した時間 |
35%以上 |
深夜労働 |
午後10時〜翌日午前5時までに労働した部分 |
25%以上 |
60時間超過時間 |
1か月の時間外労働が60時間を超えた部分 |
50%以上 |
これらを正しく理解するためには、労働時間に関する用語の正しい理解が不可欠です。
- 所定労働時間
企業が就業規則や雇用契約などで定めた通常の労働時間。法定労働時間より短く設定されている企業もあります。
- 法定労働時間
労働基準法で定められた労働時間の上限で、原則として1日8時間・週40時間。この時間を超えた部分が「時間外労働」となります。
- 所定外労働時間
所定労働時間を超えて法定労働時間の範囲内での労働時間を指します。この場合、割増賃金の支払い義務はありません。
- 時間外労働時間(法定外労働時間)
法定労働時間を超えて働いた時間で、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
なお、就業規則や賃金規程などで法定より有利な割増率を定めている場合、その企業の規定が優先されます。
出典:『しっかりマスター 割増賃金編』東京労働局
出典:『法定労働時間と割増賃金について教えてください。』厚生労働省
深夜残業の割増賃金計算の種類
深夜労働が、法定外労働(時間外労働)や休日労働と重なる場合は、割増率を合算して支給する必要があります。
また、固定残業代を支給している場合、深夜割増の手当を固定残業代に含むかどうかを賃金規程と雇用契約書に定めなければいけません。賃金規程や雇用契約書への明記がない場合、深夜労働に対する割増賃金分は固定残業代とは別に支給する必要が生じる点に注意しましょう。
時間外労働と深夜残業が重なった場合
時間外労働と深夜勤務が重なった場合は、それぞれの割増率を合算して計算します。
(例)一時間当たりの賃金が1,500円で22:00〜23:00に深夜残業した場合
22:00〜23:00の1時間分の賃金
1,500円×(時間外労働割増1.25+深夜割増0.25)×1時間=1,500円×1.5×1時間
= 2,250円
法定休日に深夜残業をした場合
労働基準法35条では、週1回以上もしくは4週を通じて4回以上の休日を与えなければならないとされています。これを「法定休日」といいます。
法定休日に深夜残業をした場合も、それぞれの割増率を合算して計算します。
(例)一時間当たりの賃金が1,500円で法定休日の22:00〜23:00に深夜残業した場合
22:00〜23:00の1時間分の賃金
1,500円×(休日労働割増1.35+深夜割増0.25)×1時間=1,500円×1.6×1時間
= 2,400円
所定休日に深夜残業をした場合
法定休日以外の休日は、所定休日(法定外休日)といいます。所定休日の割増率は、法定労働時間を超えていれば、時間外労働と同様の割増率で計算します。
そのため、所定休日に深夜残業をした場合、割増率の計算は以下のとおりです。
(例)一時間当たりの賃金が1,500円で所定休日の22:00〜23:00に深夜残業した場合
22:00〜23:00の1時間分の賃金
1,500円×(法定外休日労働割増1.25+深夜割増0.25)×1時間=1,500円×1.5
×1時間
= 2,250円
固定残業代制度を導入している場合
固定残業代制度を導入している場合、固定残業代に深夜割増を含むかどうかによって、計算方法が異なります。
①固定残業代に深夜割増を含む場合
固定残業代に深夜割増分を含む場合、賃金規程・雇用契約書等で「固定残業代には深夜○時間分を含む」と明示することが必要です。この場合、明示した時間内の範囲内で発生した深夜労働に対しては、割増賃金を支給する必要はありません。ただし、明示されている深夜時間の上限を超えた場合には、追加で深夜割増手当の支給が必要です。
②固定残業代に深夜割増を含まない場合
固定残業代に深夜割増分を含まない場合、残業時間の合計が固定残業時間内であっても、1分でも深夜時間に勤務すれば、深夜割増分を別途支給する必要があります。
(例)一時間当たりの賃金が1,500円で22:00〜23:00に深夜残業した場合
1,500円×深夜割増0.25×1時間= 375円
固定残業代とは別に、375円の深夜割増賃金を支給する必要がある。
深夜残業の割増賃金を計算するときの注意点
深夜残業の割増賃金を計算する際、労務トラブルや賃金未払いリスクを防ぐために、対象者の確認や計算に含める手当、端数処理の方法について理解することも大切です。ここでは、それぞれの注意点について詳しく解説します。
深夜残業の対象者を確認する
まず、深夜残業の対象者を正しく理解することが大切です。深夜割増は正社員だけでなく、パートタイムの従業員やアルバイトにも適用されます。
また、労働基準法第41条において労働時間、休憩、休日の規定の適用除外となっている管理監督者や、労働基準法第38条に規定する裁量労働制であっても、深夜時間帯に勤務した場合は割増賃金の支払い義務が発生します。
ただし、高度プロフェッショナル制度の適用対象者に関しては、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定が適用されません。
出典:『高度プロフェッショナル制度について(PDF)』厚生労働省
一方で、労働基準法では、深夜労働そのものに制限がある従業員についても規定されています。
- 18歳未満の年少者
労働基準法第61条により、18歳未満の年少者は例外なしで深夜労働が禁止されています。
- 妊産婦(本人から申し出がある場合)
労働基準法第66条により、申し出があった場合には深夜労働を免除しなければなりません。
- 育児・介護中の従業員(申出がある場合)
育児・介護休業法第19条に基づき、申し出があれば深夜労働は原則免除となります。
出典:『最低年齢、深夜業の禁止、年少者・妊産婦等の就業制限 ほか』茨城労働局
計算に含める手当・除外する手当を理解する
月給制の場合、1時間当たりの賃金は、法令に基づき次のステップで算出します。
①1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12=1か月の平均所定労働時間
②「月給」÷1か月の平均所定労働時間=1時間あたりの賃金額
1時間あたりの賃金を算出する際、基本給に加えて各種手当も計算の基礎に含める必要があり、特に誤りやすいポイントです。ただし、手当の種類によっては基礎に含めなくてもよいものもあるため、注意が必要です。
・「月給」に含める諸手当
基本給、役職手当、職務手当、資格手当、皆勤手当については、従業員の「通常の労働に対する対価」とされ、割増賃金の計算基礎に含めます。
・「月給」から除外できる諸手当
家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、賞与、インセンティブ(1か月超ごと)、結婚祝金、見舞金などの臨時手当は、労基法施行規則第21条により除外されます。
※家族手当、住宅手当、通勤手当については、支給額が従業員ごとの事情によって変動する場合に限り除外対象ですが、全員一律で定額支給を行う場合は、計算基礎に含める必要があります。
出典:『割増賃金の基礎となる賃金とは?(PDF)』厚生労働省
端数の計算方法を知る
1時間当たりの賃金および割増賃金を計算した際に、1円未満の端数が生じることがあります。この場合、事務簡便化のため、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることが認められています。
また、小数点第一位を切り上げることも従業員が有利になるため問題ありません。ただし、就業規則や賃金規程に明記し、全従業員に適用する必要があります。
出典:『賃金計算の端数の取扱い』愛知労働局
所定労働時間との関係に注意する
深夜割増は、所定労働時間内かどうかに関係なく、午後10時から翌5時までの深夜時間帯に働いた場合は必ず支払う必要があります。
例えば、交替勤務の夜勤シフトで所定内労働時間に深夜が含まれる場合、25%以上の深夜割増を加算して給与計算を行います。
<所定労働時間が16時から23時で、16時から26時まで働いた場合の給与計算の例>
・条件
一時間当たりの賃金:1,500円
所定労働時間:16:00~23:00(うち、休憩20:00~21:00)までの6時間
実際の労働時間:16:00~26:00(うち、休憩20:00~21:00)までの9時間
・計算方法
所定労働時間(日中)16:00~22:00:1,500円×5時間=7,500円
所定労働時間(深夜)22:00~23:00:(1,500円×1.25)×1時間=1,875円
所定外労働時間(深夜)23:00~25:00:(1,500円×1.25)×2時間=3,750円
法定外労働時間(深夜)25:00~26:00:(1,500円×1.5)×1時間=2,250円
・合計支給額
7,500円+1,875円+3,750円+2,250円=15,375円
複雑な残業代の計算は給与計算アウトソーシングに任せよう
給与計算を自社で行う場合、給与システムの設定ミスや就業規則・法改正の対応漏れが要因で、賃金未払いや法令違反が発生するリスクがあります。特に固定勤務に加え、フレックスタイム制や交替勤務など、複数の勤務形態が存在する企業では、深夜残業の計算方法も複雑で、給与システムの設定や運用に多くの知識が求められます。
こうした課題を解決する手段の一つとして、給与計算アウトソーシングの活用がおすすめです。ADP Japanの給与計算アウトソーシングでは、企業ごとの就業規則や賃金規程に基づいて給与計算を行うため、深夜割増も含め、複雑な割増賃金計算の対応が可能です。
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まとめ
本記事では、労働基準法における深夜残業の定義と支払うべき割増賃金の計算例について解説しました。深夜割増は正社員だけでなく、アルバイト・パートなども対象となります。また、深夜残業が休日労働などと重なる場合は、それぞれの割増率を計算しなければならない点も、理解しておきましょう。
割増賃金の計算には労働基準法に基づき細かくルールが定められており、人事担当者の誤った認識や運用は、未払いや法令違反につながる恐れがあります。勤務形態が多様化する中、正確な給与計算を行うためには、正しい知識と継続的な法改正の確認・対応が必要不可欠です。
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